奄美群島は、日本の歴代最高齢者となった泉重千代さん、本郷かまとさん、田島ナビさんらを輩出した100歳以上の長寿者が多数住む「長寿の島」です。なぜ、奄美には元気で長寿なお年寄りが多いのでしょうか?その謎を腸活の面から解き明かすため、腸内細菌と健康長寿の関係に詳しい、横浜市立大学の中島淳教授にお話を伺いました。
日本人の腸内環境が整っている理由は食生活にあった
実は、地理的に近い日本・韓国・中国 でも、腸内細菌の種類は大きく異なります。
なぜなら食べるものによって腸内に育つ細菌が変わるからです。
日本人の腸内には、便通を良くするビフィズス菌が多いと言われていますが、
この理由として、以下の 2つの食材を多く摂取していることが挙げられます。
① 発酵食品

- 日本食には納豆・味噌・漬物などの発酵食品が多い
- これらを幼少期から食べることで腸内の善玉菌が増える
② 水溶性食物繊維

• 善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維は海藻に豊富
• ワカメ・ノリなどの海藻を消化できる腸内細菌を持つ人は、世界で15%しかいない
• しかし、日本人は90%以上がこの腸内細菌を持っている!
つまり、発酵食品と海藻を多く摂る日本人は、「腸内環境が良い=長寿になりやすい」と考えられるのです。
奄美には特有の腸内細菌がある!
奄美に住むお年寄りの腸内には、「アスリート菌」が存在している
日本が長寿の国と言われるようになった背景には、発酵食品と水溶性食物繊維があることがわかりましたが、実は奄美にはそのような腸を整える伝統食が豊富にあるのです。
奄美に伝わる伝統食材の中でも、ソテツの実を使った「ソテツ味噌」は発酵食品ですし、お粥とすり下ろしたサツマイモと砂糖で作る発酵飲料の「ミキ」にも、善玉菌と食物繊維が豊富に含まれています。他にも、ご当地食材の島ラッキョ、モズク、青パパイヤにも、水溶性食物繊維が豊富に含まれているのです。
このような発酵食品や水溶性食物繊維を含む食材を日常的に摂取することで、奄美の人々は腸に優しい食生活を送っているのです。



奄美に住むお年寄りの腸内には、便通をよくする整腸作用があるビフィズス菌が多く存在しますが、さらに驚くべきことには、「アスリート菌」と言われる「アッカーマンシア属」や、肥満を防止すると言われている「メタノプレビバクター属」など、特別な腸内細菌も多く存在することが判明しています。
奄美の腸を元気にするのは“すごい伝統食”と“アクティブな暮らし”
1年中温暖な奄美では、農作業に従事しているお年寄りが多く、冬も夏も外に出て、島のお祭りや行事などにもアクティブに参加しています。そのような刺激が多く、ストレスを溜めない生活を送ることも、腸内細菌の働きを活性化し、より良い状態をキープすることに必要なのです。
奄美の長寿の秘密、それは島に伝わる腸にいい食べ物と、ストレスを溜めないアクティブな暮らしによって、便秘にならないことにあるのかも知れません。
長寿の鍵は「便秘にならないこと」!?
便秘の人は便秘じゃない人に比べると、寿命が圧倒的に短い
そもそも、なぜ腸内環境が整っていると、長寿につながると言えるのかというと、それは、「便秘にならないから」です。食物繊維や発酵食品を多く摂取し、より良い腸内環境を維持するということは、すなわち「便秘になりにくい」ということにつながります。
たかが便秘と思われがちですが、実は欧米を中心とした大規模な疫学研究により、「便秘の人は便秘ではない人に比べると、寿命が圧倒的に短い」ということが明らかになってきています。
便秘が引き起こす健康リスクとは⁉︎
• 心筋梗塞・脳卒中
→ 便秘時の「いきみ」で血圧が急上昇し、発作を引き起こす
• 認知症の進行
→ 便秘の人は、そうでない人に比べて 認知症の進行速度が2.7倍速い
• 腎臓病リスクの増加
→ 便秘は腎臓病の新たなリスク要因と判明
便秘は、命に関わるような大病を引き起こす要因になり得る怖い病気で、便秘は「死ぬ病気」とも言われております。便秘を防ぐことは健康寿命を延ばす重要なポイントです。
みなさんも、奄美流の“腸にいい食べ物”と“ストレスを溜めない生活”で、腸内環境を整え、便秘のリスクを減らして、健康的な長寿を目指しましょう!
※参考文献
Chang JY , et al.“ Impact of Functional Gastrointestinal Disorders on Survival in the Community” Am J Gastroenterol. 105(4): 822-832, 2010.
Nakase T, et al. CNS Neurosci Ther. 2022 Dec;28(12):1964-1973.
今回教えてくれたのは…
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横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授 : 中島淳さん
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授。大阪大学医学部卒業。社会保険中央総合病院内科、茅ヶ崎市立病院内科、東京大学第三内科助手、ハーバード大学客員研究員などを経て2014年より現職。機能性消化管疾患、肥満と消化器疾患(特に非アルコール性脂肪肝炎)、大腸がんの発がんメカニズムなどに詳しい。「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の作成メンバーで、日本消化器病学会指導医。
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